障害福祉の処遇改善加算は役員も対象?令和8年度改定と役員報酬・給与の注意点

障害福祉事業所を開業するとき、指定申請では「誰を、どの職種で、何時間配置するのか」を決めていきます。

管理者、サービス管理責任者、児童発達支援管理責任者、世話人、生活支援員、職業指導員、児童指導員など、必要な人員を確認し、雇用契約書や勤務形態一覧表を整えて指定申請を行います。

ところが、開業時に意外と見落とされやすいのが、

「その人に、実際にどのような形で給与や報酬を支払うのか」

という問題です。

特に家族経営の株式会社や合同会社では、

  • 家族だから役員にしている
  • 代表者の配偶者も現場に入る
  • 役員報酬を受け取りながら、世話人や生活支援員としても勤務する
  • 代表者自身が管理者やサービス管理責任者等を兼務する

といったケースも珍しくありません。

ここで注意したいのが、

税務上の「役員報酬」
障害福祉上の「従業者」
労務上の「賃金」
処遇改善加算上の「賃金改善」

は、それぞれ別の制度の話だということです。

開業時にこの関係を整理しないままスタートすると、数年後の運営指導や処遇改善加算の実績報告で、思わぬ不整合が見つかることがあります。

指定申請では「誰が、何時間働くのか」を届け出ます

障害福祉サービスの指定申請では、人員配置基準を満たしていることが重要です。

例えば共同生活援助(障害者グループホーム)であれば、管理者、サービス管理責任者、世話人、生活支援員などについて勤務形態一覧表を作成します。

放課後等デイサービスや児童発達支援であれば、児童発達支援管理責任者、児童指導員、保育士等の配置を確認します。

就労継続支援B型や就労移行支援であれば、サービス管理責任者、職業指導員、生活支援員、就労支援員などの配置を確認することになります。

つまり指定を受ける時点で、

「この人が、この職種で、この程度勤務します」

という前提を行政へ示しているわけです。

指定後についても、勤務形態一覧表、シフト表、タイムカード、出勤簿など、実際の勤務状況との整合性を確認できるようにしておくことが重要です。

そして、もう一つ忘れてはいけないのが、雇用契約と実際の給与処理との整合性です。

例えば、指定申請時には時給制の雇用契約を締結していたものの、開業後に税務上の取扱いなどを理由として給与の処理方法を変更するケースも考えられます。

しかし、

税務上の給与処理を変更したからといって、指定申請上の人員配置や労務上の取扱いまで自動的に変更されるわけではありません。

指定申請時の書類と、指定後の実際の勤務・給与がどのようにつながっているのかを確認しておくことが大切です。

家族経営では「役員報酬」と「現場での勤務」が重なりやすい

障害福祉事業では、経営者自身やその家族が現場に入るケースも少なくありません。

例えば、

  • 代表者が管理者を兼務する
  • 役員である配偶者がサービス管理責任者として勤務する
  • 家族である役員が世話人や生活支援員として勤務する
  • 役員自身が夜勤に入る

といったケースです。

役員が現場で働くこと自体が、直ちに問題になるわけではありません。

重要なのは、

「法人の役員としての立場」と「障害福祉事業所で実際に行っている業務」を整理しておくことです。

特に合同会社の場合、「社員」という言葉は一般的な従業員という意味ではなく、会社法上の出資者を意味します。

株式会社とは制度が異なるため、合同会社で家族を社員としている場合には、定款上どのような立場になっているのか、業務執行社員に該当するのかなども確認しておく必要があります。

税務上の役員報酬については税理士、労働者性や賃金・社会保険については社会保険労務士、障害福祉の指定・人員配置・加算については行政書士など、それぞれの専門領域をまたいで確認することが大切です。

令和8年度、処遇改善加算の対象が大きく広がりました

ここで、令和8年度の大きな変更があります。

厚生労働省は令和8年度の障害福祉サービス等報酬改定において、処遇改善加算について、福祉・介護職員以外の障害福祉従事者を新たに対象とすることを示しています。

また、これまで処遇改善加算の対象外だった計画相談支援、障害児相談支援、地域相談支援についても、新たに処遇改善加算の対象となりました。

令和8年度障害福祉サービス等報酬改定の告示、通知、Q&A、参考資料等はこちらから確認できます。

▶ 厚生労働省「令和8年度障害福祉サービス等報酬改定について」

処遇改善の対象拡大について、より具体的に確認したい場合はこちらの厚生労働省資料が分かりやすいです。

▶ 厚生労働省「令和8年度の障害福祉人材の処遇改善等の対応」

厚生労働省の資料では、福祉・介護職員以外の障害福祉従事者を新たに対象とすることが明記されています。

サビ管・管理者・事務員なども処遇改善の対象に

令和8年度の「福祉・介護職員等処遇改善加算に関するQ&A」では、さらに具体的な対象範囲が示されています。

Q&Aの問2-1-2では、処遇改善加算の事業所内での配分について、「福祉・介護職員以外の全職種」が対象に含まれるとされています。

例として挙げられているのは、

  • 施設長・管理者
  • サービス管理責任者
  • 児童発達支援管理責任者
  • サービス提供責任者
  • 医師
  • 看護職員
  • 理学療法士・作業療法士・言語聴覚士
  • 就労支援員・職業指導員
  • 生活支援員・世話人
  • 児童指導員・保育士
  • 相談支援専門員
  • 管理栄養士・栄養士
  • 調理員
  • 事務員

などです。

つまり令和8年度は、処遇改善加算を「直接支援職員だけの制度」と考えないことが重要です。

令和8年度の通知・Q&Aは、愛知県の公式ページにも掲載されています。

▶ 愛知県「福祉・介護職員の処遇改善に関する加算について」

令和8年度は「役員でも対象になり得る」ことが明確に

そして今回、特に注目したいのが代表取締役等の役員の取扱いです。

令和8年4月9日付の「福祉・介護職員等処遇改善加算に関するQ&A(第1版)」問2-9では、代表取締役等の役員が、その障害福祉サービス等事業所の職員として実際に障害福祉サービス等を提供している場合について、明確な考え方が示されました。

処遇改善加算の算定対象となる事業所で業務を行っていると判断できる場合には、役員等についても処遇改善加算による賃金改善の対象に含めることができます。

Q&Aそのものはこちらです。

▶ 令和8年4月9日「福祉・介護職員等処遇改善加算に関するQ&A(第1版)」

役員については「問2-9」をご確認ください。

これは、小規模な障害福祉事業者にとって非常に重要な変更です。

障害福祉の現場では、

  • 法人代表者自身が管理者をしている
  • 役員がサービス管理責任者を兼務している
  • 役員が世話人や生活支援員として勤務している
  • 役員が相談支援専門員として実際に計画作成業務を行っている

といったケースも珍しくありません。

令和8年度以降は、単純に「役員だから処遇改善の対象外」と判断するのではなく、

「その人が実際に処遇改善加算の算定対象となる事業所で業務を行っているのか」

を確認することが重要になります。

ただし「役員なら誰でも対象」という意味ではありません

ここは注意が必要です。

役員であるという肩書だけで処遇改善加算を配分できるわけではありません。

令和8年度Q&Aは、対象となる事業所の業務を実際に行っていると判断できる場合を対象としています。

逆に、法人本部に所属していても、対象事業所の業務を行っていると判断できる職員については対象に含めることができる一方、処遇改善加算を算定していない事業所や障害福祉サービス以外の事業だけに従事する職員は対象にできないとされています。

したがって、役員へ処遇改善加算を配分する場合には、

  • 勤務形態一覧表
  • シフト表
  • タイムカード・出勤簿
  • 業務記録
  • 職務内容

などから、実際に対象事業所の業務に従事していることを説明できる状態にしておくことが重要です。

役員も対象になるからこそ「役員報酬」と給与設計が重要

ここで注意したいことがあります。

処遇改善加算の対象範囲が広がったからといって、

「役員報酬を払っていれば、それだけで給与については考えなくてよい」

ということではありません。

例えば、

  • 指定申請では従業者として配置している
  • 実際に毎月一定時間勤務している
  • タイムカードにも勤務実績が残っている
  • 雇用契約書や労働条件通知書を作成している

という場合には、その人について、

役員報酬
雇用契約
通常の賃金
社会保険
処遇改善加算

がどのような関係になっているのかを整理しておく必要があります。

特に開業時には、

  • 役員報酬はいくらにするのか
  • 事業所では何の職種として勤務するのか
  • 月・週にどの程度勤務する予定なのか
  • 雇用契約をどのように整理するのか
  • 社会保険はどうなるのか
  • 夜勤を行う場合の賃金計算はどうするのか
  • 処遇改善加算をどのように配分するのか

まで、一体的に考えておくことをおすすめします。

処遇改善加算で最低賃金を補えばいい?

処遇改善加算と最低賃金との関係についても、令和8年度Q&Aで考え方が示されています。

問1-6では、処遇改善加算による加算額が賞与等ではなく、予定できる通常の賃金として毎月支給されている場合には、最低賃金との比較対象となる賃金に含まれる場合があるとされています。

一方で、同じQ&Aでは、処遇改善加算の目的等を踏まえ、最低賃金を満たした上で賃金を引き上げることが望ましいという考え方も示されています。

そのため、これから障害福祉事業所を開業するのであれば、

まず通常の給与を適切に設計し、その上で処遇改善加算による賃金改善をどう行うのか

という順番で考えておく方が分かりやすいでしょう。

▶ 令和8年度処遇改善加算Q&A(最低賃金については問1-6)

利用者が少ない開業直後こそ、給与設計に注意

新しく障害福祉事業所を開業した場合、最初から定員いっぱいの利用者が集まるとは限りません。

開業直後は利用者が少なく、給付費収入も十分ではないため、

「最初は役員報酬を低めにしておこう」
「家族だから、しばらく少ない報酬で手伝ってもらおう」

と考えることもあるでしょう。

経営上、そのような判断が必要になる場面もあると思います。

しかし、注意したいのは、利用者が増えた後も、開業当初の給与・報酬設計がそのまま残ってしまうことです。

利用者が増えれば、職員の勤務時間も増えていきます。

開業当初は勤務時間が少なかったとしても、その後、常勤に近い勤務になったり、夜勤に入る回数が増えたりすることもあります。

そのため、

「開業時に決めた役員報酬や給与を、そのまま何年も続けてよいのか」

を一度見直すことも大切です。

開業から半年、1年など一定のタイミングで、

「現在の勤務実態と給与・報酬の設計は合っているか」

を確認することをおすすめします。

処遇改善の配分が不足していたことが分かったら?

処遇改善加算では、実績報告時に実際の賃金改善額を確認します。

令和8年度Q&Aの問1-9では、賃金改善額が加算額を下回った場合、原則として返還の対象になるとされています。

ただし、同じQ&Aでは、不足する部分について賞与等の一時金として追加的に職員へ配分することで、返還を求めない取扱いとしても差し支えないとされています。

したがって、計算や支給状況を確認した結果、不足が判明した場合でも、すぐに「返還しかない」と判断するのではなく、実際の支給状況を整理した上で指定権者へ確認することが大切です。

▶ 令和8年度処遇改善加算Q&A(不足額の追加配分については問1-9)

「税理士に確認したから大丈夫」だけでは足りないことも

障害福祉事業所の経営では、一人の人について複数の制度が同時に関係します。

例えば、

税務では「役員報酬」
労務では「労働時間・賃金・社会保険」
障害福祉では「人員配置・勤務実態・処遇改善加算」

というように、それぞれ確認するポイントが違います。

これは「税理士の判断が間違っている」「社労士に聞けばすべて解決する」という意味ではありません。

それぞれの専門家が自分の専門分野について適切に判断していても、制度と制度の間に隙間ができてしまうことがあります。

だからこそ、開業時には、

「この人は役員です」

だけで終わらせず、

「法人では役員ですが、障害福祉事業所では○○の職種として週○時間程度勤務します。その場合、役員報酬・給与・社会保険・処遇改善加算をそれぞれどう整理しますか?」

まで確認しておくことが重要です。

今後、処遇改善加算の対象者はどこまで広がる?

令和8年度改定を見ると、処遇改善制度の対象は大きく広がりました。

厚生労働省は、福祉・介護職員以外の障害福祉従事者を新たに対象としました。

さらに、計画相談支援、障害児相談支援、地域相談支援も新たに処遇改善加算の対象となっています。

そして、令和8年度Q&Aでは、実際に対象事業所の業務を行っている代表取締役等の役員についても、処遇改善の対象になり得ることが明確にされました。

つまり制度は、

「どんな肩書の人なのか」だけではなく、「実際に障害福祉の仕事をしているのか」

をより重視する方向へ進んでいると見ることができます。

では、令和9年度以降、さらに対象範囲が広がるのでしょうか。

現時点で、さらなる対象拡大が決定しているわけではありません。

ただし、厚生労働省ではすでに令和9年度障害福祉サービス等報酬改定に向けた検討が進められています。

今後も、対象職種、役員の取扱い、賃金改善の方法などについて最新の通知・Q&Aを確認していく必要があります。

まとめ|障害福祉の開業は「指定が取れれば終わり」ではありません

障害福祉事業所の開業では、人員基準を満たして指定を受けることに目が向きがちです。

しかし、本当に大切なのは指定を受けた後です。

勤務形態一覧表
雇用契約書・労働条件通知書
タイムカード
賃金台帳
役員報酬
社会保険
処遇改善加算

これらがきちんとつながっているでしょうか。

特に家族経営の法人や、代表者・役員自身が現場に入る事業所では、開業時から整理しておくことをおすすめします。

令和8年度には処遇改善加算の対象範囲も大きく変わりました。

制度が変われば、以前に作った給与設計を見直す必要が出てくることもあります。

これから障害福祉事業所を開業する方には、

「指定申請の人員配置」と「実際の働き方」と「給与・役員報酬」を別々に考えないこと。

ぜひ開業前に確認していただきたいポイントです。

参考|公式資料

▶ 厚生労働省「令和8年度障害福祉サービス等報酬改定について」

▶ 厚生労働省「令和8年度の障害福祉人材の処遇改善等の対応」

▶ 愛知県「福祉・介護職員の処遇改善に関する加算について」

▶ 令和8年4月9日「福祉・介護職員等処遇改善加算に関するQ&A(第1版)」


※本記事は令和8年9月時点で公表されている厚生労働省及び愛知県の資料をもとに、障害福祉サービス事業者向けに一般的な制度を解説したものです。個別の役員・従業者の労働者性、最低賃金、役員報酬の税務上の取扱い、社会保険の適用等については、それぞれ税理士・社会保険労務士等の専門家への確認が必要です。また、処遇改善加算や指定基準の具体的な取扱いについては、各指定権者へご確認ください。

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